今月もラジオを聞いてくださった皆さん、ありがとうございました。
今年の1月からの大河ドラマは、平安時代が舞台で、源氏物語の作者の紫式部が主演の物語「光る君へ」が始まっています。それにちなんで、今月は「昔の色」をテーマに、「平安時代の色」についてお話ししました。
平安時代はあまり戦のない「貴族」が中心の時代。
この時代の貴族たちにとって、「色を使いこなすこと」が大切な教養のひとつでした。
身に着ける着物の色や、お手紙を出す時の和紙(恋文)も、その季節に合った色を重ね合わせたものにすることが、自分の魅力を表現する大切な手段でした。
もちろんまだ今のように化学染料がない時代。色が貴重な時代でした。植物染めがメインだったのですが、植物で染めると、淡い色、濁った色になります。濃くはっきりとした色を出すには、何度も染色を重ねなければならなかったのです。
そんな中、豊かな色彩表現ができることは、権力を表す力の象徴でもありました。
特に、平安時代に発達した着物の色の重ね方、その美しい配色のことを「かさねのいろめ」と呼びます。
薄い絹を2枚重ねて、裏地が表地に透けて見えるグラデーションを楽しむ「重ねの色目」
お雛様の十二単の内側に着ている5枚のかさねである「襲ねの色目」
四季があり自然豊かで季節の移り変わりによって、様々な色合いを楽しむ日本の環境が生み出した美しい色彩感覚です。
例えば「藤の襲」。これは藤の花をモチーフにしたかさねで、
藤棚を下から眺めると、お花の下の方が濃い目の藤色になり、上に行くにつれだんだんと薄くなり、葉の黄緑色・・・という風に重なって見えます。
ですので藤の襲は、濃い目の藤色、少し淡い藤色、ほんのり色づく程度の藤色と、藤色のグラデーションに、最後に白を置き、葉の緑を添えた5枚の襲です。
「紅梅の襲(こうばいのかさね)」。これは梅の花を表したもの。
白に、淡いピンクからだんだんと濃い赤になっていく赤色のグラデーションを重ねています。梅の赤は、ほんのり青みがかった赤。
梅の咲く季節には雪がはらはらと舞うことがあったそうで、雪の白に赤のグラデーションで梅の季節を表現しています。
平安時代が舞台の今期の大河ドラマの中でも、お姫さまたちが美しい衣装をお召しになられてますので、ぜひその衣装に注目してみてください。
ドラマの中では演出上、かさねの色目による季節感は表現できていないそうなのですが、
役のキャラクターによって衣装の色が決められています。
ドラマの主役の紫式部の衣装のテーマカラーは「黄色やオレンジ」だそうです。
紫式部の家族全体のイメージカラーが「黄色系」なので、お父さんや弟の衣装も黄土色のような色だったり、山吹色のような色で表現されています。
黄色は色彩心理では「知性」を表す色。文学に秀でた家系の知的さも表しているように思います。
主人公の衣装も、黄色やオレンジの衣装に、内側に紫がちらっと見えるようになっています。
紫と黄色は、補色といって、色のパワーを引き立て合う関係です。
黄色にちらっと紫が見えることで、より紫が引き立つように演出されているんです。
出演者の心情の変化により、衣装の色も変化していきます。これからどんな風に変化していくか、楽しみながら、想像しながら見るのも楽しいですよ。
色彩心理の視点があると、世界がとっても広がります。